孤独な散歩者の夢想

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help リーダーに追加 RSS 海の調べ ― ル・クレジオ

<<   作成日時 : 2009/01/12 16:59   >>

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昨年(2008年)末、フランスの作家ル・クレジオがノーベル文学賞を受賞したというニュースを聞いて、とても懐かしく感じました。というのも、大学で第二外国語としてフランス語を習い覚え、構内の書籍売り場に並んでいる初級購読用の読本をあさっていた時に見つけたのが、ル・クレジオのCelui qui n’avait jamais vu la
mer(海を見たことがなかった少年)だったのです。辞書の助けを借りつつ読み始めて、ボクはすっかりその小さな物語のとりこになりました。そして、拙い読解力をものともせず、当時出回り始めたばかりのワープロが研究室にあったので、空いているときに日本語に移す作業にとりかかりました(後にも先にも、一篇全部を訳したのはこれが最初で最後でした…笑)。

船乗りシンドバッドにあこがれるダニエル少年は、海を見たいという抑えがたい欲求に駆られて、ある日寄宿舎を抜け出してしまします。数日間にわたる貨物列車の旅の末に、海沿いの街に夜着いたダニエルは、海の近くの小屋で夜の明けるのを待ちます:


Quand il se réveilla, le soleil était déjà dans le ciel. Daniel est sorti de la
cabane, il a fait quelques pas en clignant les yeux. Il y avait un chemin qui
conduisait jusqu’aux dunes, et c’est là que Daniel se mit à marcher. Son
coeur battait plus fort, parce qu’il savait que c’était de l’autre côté des
dunes, à deux cents mètres à peine. Il courait sur le chemin, il escaladait
la pente de sable, et le vent soufflait de plus en plus fort, apportant le bruit
et l’odeur inconnus. Puis il est arrivé au sommet de la dune, et d’un seul
coup, il l’a vue.

目を覚ましたとき、太陽はすでに空に輝いていた。ダニエルは小屋から出て、目をしばたたきながら数歩歩いた。砂丘へと通じる道があり、そこをダニエルは歩き始めた。心臓の鼓動が速くなってきた。彼には、砂丘の向う側、二百メートルも行けばそれがあるとわかっていたから。彼は道を走り、砂の斜面を駆け上がった。すると、風がしだいに強くなり、未知の響きと香りを運んできた。そして砂丘のてっぺんに達すると、海が目に飛び込んできた。(豊崎光一訳より改変)


この部分を訳しながら、ボクにはまだ「未知の響きと香り」に満ちたフランス語を味わいながら、意味をとり、日本語にしながら、ダニエルと同じ期待と興奮をおぼえて鼓動が早まるのを感じたことを、いまでも覚えています。ダニエルはその後、海辺の洞窟で、タコを友達とし、小エビや貝を食べて暮らします…

ちなみにこの短編は、いまでは集英社から『海を見たことがなかった少年―モンドほか子供たちの物語』というタイトルで邦訳が出ています。帯の背には「この一冊、いま新しい『星の王子さま』」とあります。もちろん『星の王子さま』とは比べものにならないほど読んだ人は少ないでしょうが、初級文法で十分読めるやさしいフランス語なので、『星の王子さま』のようにフランス語の初学者にも読まれるようになるといいな、と思います。

               Celui qui n’avait jamais vu la mer par J. M. G. Le Clézio

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