孤独な散歩者の夢想

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zoom RSS 孤独の調べ ― 光厳院

<<   作成日時 : 2009/01/15 21:04   >>

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別項で、ランプと向かい合った孤独の姿を描いたバシュラールリルケの文章を取り上げましたが、日本にもこれらと比肩する作品があるので紹介します。これは「ともしび(燈)」を詠った光厳院という人の和歌です。

光厳院は14世紀の人で、時代としてはヨーロッパで言えばルネサンス創世記にあたります。1313年(正和二年)の生まれなので、ボッカッチョと同じ年になります。 蛇足ですが、院の祖父でもあり、院と並ぶ京極派和歌の代表でもある伏見院は、1265年(文永二年)の生まれなので、ダンテと同じ年ということになります。ちなみにペトラルカは1304年生まれです。


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  さ夜ふくる 窓の燈つくづくと かげもしづけし 我もしづけし

  心とて よもにうつるよ 何ぞこれ ただ此のむかふ ともし火のかげ

  むかひなす 心に物や あはれなる あはれにもあらじ 燈のかげ

  ふくる夜の 燈のかげを おのづから 物のあはれに むかひなしぬる

  過ぎにし世 いまゆくさきと 思ひうつる 心よいづら ともし火の本

  ともし火に 我もむかはず 燈も われにむかはず おのがまにまに

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「ともしび」という歌題は比較的新しく、鎌倉時代、つまり新古今時代からみられるようになります。「新古今集」の代表歌人である定家・家隆にすでに「ともしび」の歌があります。その後、鎌倉末期〜南北朝時代の勅撰集「玉葉集」「風雅集」を生み出した京極派と呼ばれる歌人たちに、とくに愛詠されたようです。

光厳院は、この「風雅集」の代表歌人の一人であり撰者でもあります。あまり知られている人ではないと思いますが、後醍醐天皇の皇太子だったと言えば、その波乱の生涯が想像できるかもしれません。皇太子といっても、親子でも兄弟でもなく、後醍醐は大覚寺統(のちの南朝)、光厳は持明院統(のちの北朝)というふうに対立しあう系統になっています。この当時は両統迭立といって、二つの系統から順番に天皇(皇太子)を選んでいました。

光厳は、元弘の変で倒幕に失敗した後醍醐が隠岐に流されたのを受けて、19歳で天皇になります。しかし、わずか2年後に後醍醐が鎌倉幕府を倒して復活したために光厳は廃位されます。ところが、その3年後に足利尊氏が後醍醐を退けて室町幕府を開くと、光厳の弟が光明天皇として立てられ、光厳はその後見として院政を開始します。「玉葉集」と並ぶ京極派の代表歌集「風雅集」を、光厳が自ら撰進したのはこの時期のことでした。しかし、この平和の時代も十余年で終止符が打たれます。幕府の内紛(いわゆる「観応の擾乱」)から南朝の介入を招き、光厳ら北朝は再び廃され、南朝に囚われの身となります。ここに至り、光厳は40歳にして出家します。その後、京に戻ることができましたが、参禅に励んだ末に行脚の旅に出て、丹波国(現在の常照皇寺)にて若干51年の生涯を終えます。

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上に紹介した「ともしび」の歌は六首の連作になっていて、ちょうど内容的に前半と後半の三首ずつが線対象となるように並べられています。700年も前の作品であるにもかかわらず、これらの和歌に詠われた、ともしびと向かい合う孤独な姿は、現代でも共感することができます。最後に、以下に現代語訳を掲げておきます(岩佐美代子『光厳院御集全釈』より改変):


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  夜がふけゆく窓辺のともしびをつくづくと眺める。その光も静かである。私も静かである。

  心というのは、あちらこちらへと移り変わるものよ。一体これは何なのか。いま向き合っているのはともしびの光だけだ。

  向き合って思う心に物のあわれが感じられることだろうか、あわれというわけでもないであろうが、ともしびの光よ。

  ふけゆく夜のともしびの光は、しぜんと物のあわれのように、向き合っていると思われることよ。

  過去、現在、未来と思いが移りゆく。心はどこにあるのか、ともしびのもとにある心よ。

  ともしびに私は向かっていないし、ともしびも私にむかっていない。それぞれにあるだけだ。

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